ベトナムのベストセラー小説「つぶらな瞳」を読む。その1

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ベトジョーで取り上げられているように映画「Mắt biếc」がベトナムで大ヒットしているようです。

 ネットで見える予告編しか見ていないのですが、とても素晴らしい映像の美しさで期待できる作品だと思います。特に主演女優のNguyễn Trúc Anhの魅力が最大限に発揮されています。

私が最初にベトナム映画を見たのはもう20年ほど昔です。「青いパパイヤの香り」という映画でした。当時は全くベトナムには興味がなかったのですが、ポスターの少女の瞳が印象的で借りてみた記憶があります。

この映画もすごく映像が美しかったです。古い時代のベトナムの建物や生活習慣が淡々と映し出されますが、全体的に暗く光の入れ加減を緻密に計算した映像に引き込まれていきます。この映画以来、映像美はベトナム映画のお家芸でしょう。

残念ながら「Mắt biếc」はいまだ日本では公開されておらず、公開はまだ先になると思います。ただ、「Mắt biếc」の原作にあたるNguyễn Nhật Ánhの原作小説は「つぶらな瞳」という邦題ですでに出版されているのです。「Mắt biếc」はいまだ英語にも訳されていないのにすでに2004年に邦訳されているってすごくないですか?

つぶらな瞳

つぶらな瞳

 

 映画を見たくて見たくて仕方ない私はかわりに「てらいんく」という出版社から刊行されているこの小説を早速購入して読みました。ベトナムの農村の村の景色と、主人公ガンのハー・ランへの苦しい心の葛藤が情緒豊かに描かれています。ベトナムが好きな人には是非一読していただきたいです。

 

あらすじ

注意!ここから先は壮絶なネタバレを含みますのでストーリーを知ってしまうのが嫌な方は引き返してください。

 第一章

ベトナムの地方にある小さな村、ドードー村に住む少年ガンは家族と親戚の女友達に囲まれて幼い時代を過ごすが、小学生になって学校に通うようになるとハー・ランという少女と出会う。ハー・ランは愛くるしく女性的な魅力があり、ガンは彼女の瞳に魅了され、のちに彼女を「つぶらな瞳」と呼ぶようになる。

ガンとハー・ランは柿を拾ったり、カエルを捕まえたりと子供らしいあそびで友情を育み、小学校5年生のころには下校もいつも一緒にするような間がらになっていた。ハー・ランはガンが危険な遊びや喧嘩で怪我をすると傷口にオイルを塗ってあげる役を務めていた。

村の学校は5年生までの学級しかなく、6年生に進級したガンとハー・ランは県都の学校へ通うために生家を離れて県都で下宿することとなった。中学生となった二人は学校で一緒にすごすことはなくなったが、村に帰る週末にはテンニンカの森でフトモモの実を食べるなど仲のよい友達に戻っていた。

8年生になったころハー・ランは大人の女性へと急激に成長し、ガンはハー・ランを恋愛対象としてはっきりと意識するようになった。9年生になったころガンはギターを買い、ハー・ランへの思いを詩にして作曲に没頭していた。このころハー・ランは勉強のためにガンの下宿に訪れるようになり、ガンがギターを持っているのに気づき演奏をリクエストした。ガンは演奏をハー・ランに褒められるが自分が作曲した曲だとは言いだせなかった。ハー・ランへの思いを曲に込めるだけで、気持ちを打ち明ける勇気を持つことができなかった。

その年のテトにガンとハー・ランはまたテンニンカの森へ遊びに行った。ガンはまたハー・ランにギターを弾き、自作の「幼いままでいられたら」を演奏した。ハー・ランはガンが作った曲なのかと尋ねるとガンは黙って頷いた。ガンはハー・ランに曲を褒めらたことに舞い上がり、今までの曲は自分が作ったものだと打ち明けたが、ハー・ランにはずっと前から知っていたと素っ気なく返されてしまう。それからガンは自分の心を歌にしてハー・ランに吐露するのだが、ハー・ランの態度は素っ気ないまま都会へ旅立って行ってしまう。

第二章

ハー・ランは一度村へ戻ってきたが、足にぴったりとした西洋風のズボンを履き、Tシャツを着て髪を短くカットしていた。ハー・ランは都会をほめたたえ、村をけなす。都会での生活が楽しくてたまらないようだった。

ガンも10年生(高校生1年)に進級するために都会へ出てきた。都会の繁栄と豊かさに圧倒されるが、ドードー村には別の美しさがあることに気付く。

ガンは薬局を経営する裕福なフアン伯父の家に下宿する。そこには3歳年上の長男ユンが住んでいた。ユンは遊び人で勉強もせず悪友と遊んでばかりの不真面目な男だった。

ハー・ランは裕福な伯母の家に下宿していた。伯母夫婦には子供がいなかったのでハー・ランは伯母にかわいがられていた。

ハー・ランは女子高に入学したので学校で会うことはなくなったが、ガンは校門の前で彼女が出てくるのを待って、いっしょに自転車で彼女の下宿まで送るのを日課にしていた。ハー・ランはほとんど村に帰ることはなかったし、故郷の様子を気にするそぶりもなかった。

ある日、期末試験のためにガンに本を借りるためにハー・ランがガンの下宿にやってくる、そこでハー・ランはユンと出会い意気投合する。翌日ガンはユンが女子高の前でハー・ランを待ってるのを目撃した。その後ユンは一度下宿にハー・ランを送り届け、ハー・ランは華やかな服に着替えてユンのバイクに乗って遊びに出かけていった。その一部始終を目撃したガンは打ちのめされる。結局ユンが家に帰ってきたのは夜も更けてからだった。

その後、ユンはハー・ランを頻繁に誘い出して遊びに行っているようだった。ガンはハー・ランを避けるようになり、ハー・ランもなるべくガンに合わないようにするようになった。

しかしある日突然目を赤く泣きはらしたハー・ランがガンのもとを訪ねてきた。ユンがビック・ホアンという別の女と付き合っているようなのだ。ガンは心の中で二人の破局を喜んだが、すぐにユンへの怒りとなりユンを郊外に連れ出して殴り合いのけんかをすることになった。この後、ユンは結局ハー・ランとよりを戻している。

この年の夏休みにハー・ランは20日ほどしか村へは帰らず、ほとんどを都会で過ごした。ガンも村に戻ったがハー・ランとはほとんど話すこともなかった。ガンはほとんど毎日森へ出かけて昔のことに思いをはせていた。

11年生に進級したガンは勉強に没頭した。一方ユンは遊び相手の女をくるくると変えていた。ハー・ランは再びガンの元を訪れてガンの肩に顔を埋めて泣きじゃくった。それでもハー・ランはユンと別れられないようだった。ガンはハー・ランに心を痛め、同時に失望する。

ユンとハー・ランとの関係は年の末までずるずると続いて、結局ハー・ランは17歳でユンの子供を妊娠してしまった。ハー・ランは学校を退学した。ユンはハー・ランと結婚の約束をしたようだが、期末試験を理由に引き延ばし、結局9か月の兵役を終えるまで結婚式は先延ばしとなった。

ガンは11年を卒業した後、教員になるためにクイニョンにある二年制の師範学校へ進学した。ガンはハー・ランと手紙をやり取りし、チャー・ロンと名付けられた女の子の誕生を知った。その後別の便りで衝撃の事実を知る。ユンは兵役から戻ってきたがビック・ホアンと結婚したというのだ。ガンはすぐにハー・ランの元に戻る決意をする。

第三章

ガンは師範学校を卒業後に帰郷し小学校の教師となった。村の若者は出て行ってしまうがガンの少年時代からかかわりのある人たちは変わらずに残っていた。チャー・ロンはハー・ランの実家に預けられていた。ハー・ランは裁縫店の開業のため忙しく面倒を見られないからだ。ガンはハー・ランの化身のようなチャー・ロンに特別な愛情を注いで面倒を見る。

以前ユンとビック・ホアンが結婚したことを知って、急いでハー・ランのもとへ戻ったのは彼らの結婚式の10日ほど後だった。二人はダラットへ旅立ったらしい。ハー・ランは号泣した。ガンは三日間ハー・ランと過ごし励ました。それから師範学校を卒業するまでハー・ランのいる町には戻らなかった。

ガンはチャー・ロンの遊び相手になり、母親のもとに連れていくこともあった。チャー・ロンは母に村に帰ってきて一緒に住んでほしいと言うが、ハー・ランにはその気はなかった。都会から離れる気はないようだった。ガンの思いにも全く触れようとはしなかった。

ガンは少しずつ成長するチャー・ロンの世話をした。チャー・ロンは故郷を愛する少女へ成長していった。ガンはチャー・ロンの世話をすることで心が癒されていくようだった。

チャー・ロンが9年生に上がるころにはハー・ランとうり二つの美しい少女に成長していた。ガンはチャー・ロンの母親譲りの美しい瞳に動揺し、チャー・ロンを意識するようになった。そして精神的にも成長したチャー・ロンはガンの母への思いに薄々気づいて行った。

ある日、ガンがチャー・ロンを連れてハー・ランを訪ねるとリンという男に出くわした。リンはハー・ランと交際していたが、チャー・ロンを見てハー・ランの娘であると気付いて、それを理由に去って行った。ハー・ランはリンと付き合っていた理由はユンによく似ていたからだと告白する。ガンはいまだにユンのことを引きずっているハー・ランに失望する。

村に帰ったガンは取り乱し、ハー・ランを思って作曲した曲を一心不乱に演奏する。チャー・ロンはリンに出くわした時のこともあり、母とガンの関係を悟っていた。歌を聞いていたチャー・ロンは母のことを歌っていたのかとガンに尋ねる。ガンはハー・ランのことを歌った曲だと認めた。

ハー・ランの母はガンとハー・ランが結婚することを望んでいた。ハー・ランが帰郷したときそのことを話した。その話の途中でたまたまガンがハー・ランの家を訪ねたとき、二人は話を中断したがハー・ランの頬には涙の跡があった。ガンはそれが気になり、後日母親に話の内容を尋ねた。ハー・ランの母はハー・ランにはガンと結婚する意志がないと伝えた。ガンは絶望し重苦しい日々を過ごすことになった。

チャー・ロンは9年生を終了した後は中等師範学校に進学し、3年後に村に帰って教師になる決意をした。ハー・ランの住む町だが、母親とは暮らさず叔母の家に住むことにした。チャー・ロンは勉強に専念しあまり村には帰らなかったが、夏休みの3か月は村でガンと一緒に過ごした。ガンは悲しみを乗り越えてチャー・ロンとの日々に喜びを感じていた。夏休みを終え学校に帰るときには、「あと2年の辛抱よ」とガンとの未来をにおわせる言葉を残して戻って行った。

翌年、ハー・ランは結婚した。ガンは結婚式の贈り物を送っただけで式には出席しなかった。

半年後、チャー・ロンは中等師範学校を卒業し、村に戻ってきた。チャー・ロンはガンへの好意をそれとなく態度で示す。ガンもチャー・ロンとの結婚を意識する。ハー・ランもガンとチャー・ロンがうまくいくことを望んでいるようだった。

ガンはかつてハー・ランと座って夕日を眺めた岩の上にチャー・ロンと腰を掛けてギターを奏でた。二人は抱きしめ合いキスをする。しかしその瞬間、ガンは脳裏にハー・ランを思い浮かべてしまう。この瞬間を何年も待ち続けていたのはハー・ランに対してだったのだ。恐れおののいたガンはチャー・ロンから離れ茫然自失のまま帰宅する。

ガンはチャー・ロンへの愛は形を変えたハー・ランへの愛でしかなかったと悟り、だれにも気づかれないように一人村を去る決意をする。